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ド ウェル家

Domaine Pinchinat

ド ウェル家
生産者: ド ウェル家
地方: フランス・プロヴァンス
オーガニック歴: 有史以来(認証は1990年より)

2002年秋、初めてぶどうの収穫に参加できる、ということで意気込んで出発した。

しかし、無常にも天候は私の味方をしてくれず、予定していたボルドーはグラーヴ、ラビュゾン家での収穫は帰国に間に合わないことが判明した。彼これ5年越しのフランス通いにも関わらず、大西洋岸、西側を全然知らない私。ぶどうの収穫はもちろんのこと、行く場所、場所によって見事に景色を変えるフランスの、また別の風景も実はものすごく楽しみにしていた。



だから、収穫が無理でも、ともかく生産者のお話しを聞きにグラーヴへ行こう、と決めたのであるが、社長の意向は、『何が何でも収穫を!』であったらしい(笑)。確かに、この時期のフランスにいながら、ぶどうを目の前に結局収穫は知らない、となればワイン会社の名がすたるというものであろう。パリ在の強力なパートナー、ボアソー氏の努力の甲斐あって、ヴァール・ロゼを生産するドウェルさんのお宅に急遽、滞在が決まった。



駅まで向かいに来てもらい、お宅に向けて出発。途中、ちょうど配達があるとかで、エクサンプロヴァンス郊外のオーガニック専門のスーパーマーケットへ。フランスらしく、チーズコーナーが大きく広がり、ワインも実にたくさん。ドウェルさんのワインも、5Lや10Lパックも含め、かなりの数がならんでいる。基本的にフランス人は地元のワインが好きだから、当然人気があるのだろう。近所で作られているオーガニックワインをデイリーに消費できる"贅沢さ"に羨ましくなる。



そして、いよいよ到着!

道路から、細い、舗装されていない道をずんずん車で進んでいく。まずは小麦畑があり、小さな森を抜けると、そこには一面に広がるぶどう畑が!!!家の前にはオリーブの木も見える。数年前から、農業を職業としていない奥様もやってみたい、ということで始めたらしい。まだまだ小さな木だが、2・3年後には油を搾れるようになるそうだ。もちろん、これもオーガニック。さらに裏にも広大なひまわり畑とさらなるぶどう畑が。ぶどうだけで25haということだが、東京のワンルームに暮らしている私には、感覚がわかない。とにかく一面、見渡す限りのぶどうだ。









さらに素晴らしいのがここを取り巻く景色。一方には、画家セザンヌが一生涯見つづけたというサント・ヴィクトワール山が、そして反対側にはオレリア山が広がる。どちらも白い岩肌が、青空とコントラストを成し、美しいの一言に尽きる。この景色を毎日見ながら暮らせるということ、食事ができるということは、なんという喜びだろう。空もまともに見えない都会で暮らしているのとでは、心と体にもたらされるものは、明らかに違ってくるだろう。ある日の夜、奥さんが「うわー、見て!」と叫んだ。サロンから真正面に見える、オレリア山から、満月に近い大きな月がぽっかりと姿を現したのだった。自然の為す美。それに勝るものはないと今さらながらに実感する。







ドウェル家では、収穫は機械である。こう書くと、がっかりした人が大半に違いない。けれども間違えないで欲しい。例え機械で収穫をするにも、ものすごい労働が必要であるということ(これは目にしなければ本当にわからない)、そしてドウェルさん自身は、ずっと手摘みで続けていきたかったのに、今やどんなに失業率が高くても、そんな辛い仕事をやってくれる村の人がいなくなったからなのだ。しかも、年に数週間しか使用することがない機械だが、非常に大掛かりなためコストもすごい。現に、ドウェルさんも、お隣の人と共同で購入していた。機械が人間の仕事を奪ってしまったように感じていた私だが、実情は汗をかいて労働するという苦労を厭う人間側にも問題があったのだ。



着いて早々、昨日圧搾が済んだというロゼのタンクから味見をさせてもらう。醗酵が確実に始まっていることがわかる、酵母の匂いがぷんとする。まだジュースの甘味も多少残している。搾りたてを味見したのとは、明らかに違う、ワインの赤ちゃんだ。その後、セメントタンクに移され数日経った赤と白をはしごに登って上から眺めさせてもらう。まずは白から。白い泡状のものが、上部を覆っている。「一気に吸い込まないように鼻に気をつけながら、耳を近づけてごらん。」と言われ、体を傾けてみる。するとシュワシュワーっといわゆる炭酸のやわらかい音が聞こえる。醗酵しているのだから当たり前だし、たかだか音が聞こえただけじゃないかと言われそうだが、この感動は体験したものにしかなかなか伝えることは難しいだろう。赤はもっとすごかった。ふたを開けたとたん、活発な醗酵がすぐにわかるくらいの音が聞こえてきた。これが、いつも楽しんでいるワインに成長していくのだなと思うと、感慨もひとしおである。







マセラシオン(浸漬:赤やロゼで行う、圧搾前にぶどうを数時間から数日タンクに寝かせて、果皮その他から色素などを液体中に溶かし出す)終了後、果実を圧搾のための機械に送る際が、かなりの重労働である。まず、果実の重みで自然に搾られたジュースを送り出した後、タンクの扉を開けて、かきだすのである。まずは、できる限り扉の外から。そして後半は、1人が中に入っての作業となる。タンク内は醗酵が始まって、二酸化炭素が充満していること、さらにそれは空気より重いことなどから、このタンク内の作業は、とても危険なのだそうだ。かつては、通気が悪くて亡くなる人も少なからずいたらしい。しかし、一年の実りを1粒も、1滴も無駄にしないためには、必要な作業なのだ。この作業は、収穫が終わるまで、何度も何度も繰り返される。







私がいた数日間は、まさに収穫のまっただなかで、雨が降るのではないか、と恐れた日もあったが何とか雨にも降られず持ちこたえた。雨が降ったら一大事である。ぶどうジュースがアルコールに変わるために必要な糖分が流れ出てしまうから。収穫の間は、ただただ雨が降らないことを祈る。たった数日間の滞在だったから、毎日の作業は同じことの繰り返しだった。しかしその、収穫→より分け→圧搾→タンク詰めという一連の作業の合間に、例えば醗酵が順調に進んでいるかどうか、毎日糖度を計ってはグラフを作成し、香りや音を確認するために随時全てのタンクを見回り、機械を洗い、絞り粕を一定のところに集め(これは蒸留する会社が引き取りにくる)、と目が回るような忙しさだった。さらに、お客様の注文に応える、他の作物の面倒も見る、と日頃の仕事もあり、収穫時の忙しさというのは、想像していたとはいうものの、それをはるかに上回るものだった。収穫が手伝えない分、せめてものお手伝いをと、オリーブの下枝を剪定したり、冬に備えてポワロー(西洋ねぎ)を植えたり、外国から依頼されたラベルを手配したり、子どもと遊んだりさせてもらった。南フランスといえばつきものの、ペタンクをこんなにやったのも初めての経験である。(初日、最後にまぐれの大逆転劇をやってのけた私は、"恐るべき"と命名されてしまった!)



数日間はあっという間に過ぎた。こんな忙しさにも関わらず、食事時を中心に、私たちはいろんな話をした。またもや必ず会いたくなるステキな人たちと出会ってしまった。次回は、小麦が穂を垂れているときか、ひまわりが満開の時期に訪れたいものだ。そして、オリーブオイル第1号が搾れたときには胸がいっぱいになることだろう。



そして、もちろん2002年のワインが手もとに届いたときのことを考えると・・・



追伸:ドウェルさんが先日ニューイヤーメールをくれました。その中には「…ここでの毎日も静かに流れている。今は冬だからね、美しい季節に比べると少しさみしい感はぬぐえないけれど。。。でも、浩代が植えたポアローはすごく順調に育っていて(まあ、あんまり真っ直ぐには植えられてなかったけどさ。※作者注:下ばっかり向いて植えていると、気づくと常に右に曲がってたんですよね!)、もう間もなく食卓に上がるよ!…」と、嬉しくも楽しいコメントが書かれていました。



レポート:2003年9月(長谷川)



≫2004年4月にアラン ドウェル氏が来日した様子を見る

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